大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)956号 判決

原告

有限会社平和商事

右代表者

関根英雄

右訴訟代理人

佐藤昇

寺尾寛

被告

ニシケン建設株式会社

右代表者

占部猪之助

右訴訟代理人

新井藤作

金子包典

主文

一  被告は原告に対し、金三〇万円及びこれに対する昭和五七年八月四日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一〇分し、その九を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金五三九万一六六六円及びこれに対する昭和五七年八月四日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は宅地建物取引業者であり、被告は建築請負・宅地建物取引業者である。

2  被告は、昭和五六年八月二八日、訴外有限会社双葉及び同金子治男との間に、右両名より埼玉県川口市赤井字田畑一一二九番二三外一三筆の土地(以下「本件土地」という。)を代金一億七七七二万二二〇〇円で買受ける旨の売買契約を締結した(以下「本件売買」という。)。

3  原告は、被告から委任を受けて本件売買について被告のため媒介行為をなし、契約締結に至らせた(以下「本件仲介」という。)。

4  右売買契約締結により、原告は被告に対し、仲介報酬請求権を得た。

5  原・被告間には、仲介報酬額についての明確な取り決めはないが、その報酬額は、仲介の内容、本件売買の特殊性及び被告が本件売買契約解除により売主から一〇〇〇万円相当の違約金(六〇〇万円は現金、四〇〇万円は本件土地の地下の排水管使用権)を得たことからみて、建設大臣告示の最高報酬額である売買価格の三パーセント及び六万円の合計金五三九万一六六六円を相当とする。

6  原告は被告に対し、昭和五七年八月三日到達の書面により右報酬金の支払を催告した。

7  よつて、原告は被告に対し、右報酬金五三九万一六六六円及びこれに対する履行遅滞後の昭和五七年八月四日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の請求原因に対する認否

1  その1ないし3の事実は認める。

2  その4の事実は否認する。後記のとおり、本件仲介報酬請求権の成立は、売主の義務の完全履行を停止条件とするものである。

3  その5の事実のうち、原、被告間に仲介報酬額についての明確な取決めのないこと、被告が売主から現金六〇〇万円を受領し、本件土地の地下の排水管使用権を譲渡されたことは認める。但し、右譲渡は本件売買とは関係なくなされたものである。右排水管使用権の価値が四〇〇万円相当であること及びその余の事実は争う。

4  その6の事実は認める。

5  その7は争う。

三  被告の主張〈省略〉

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1の事実(原、被告が宅地建物取引業者であること)、同2の事実(本件売買の成立)、同3の事実(本件仲介)は当事者間に争いがない。

二そこで、本件仲介報酬請求権の成否について判断する。

1  宅地建物取引業者の依頼者に対する不動産売買の仲介報酬請求権は、両者間に特約のない限り、業者の媒介により当事者間に売買契約が有効に成立することにより発生するもので、その契約が履行されたか否かは問うところではないと解すべきである。

2  これを本件に即して検討するに、被告は、原、被告間には本件仲介報酬請求権の成立は売主が契約上の義務を全部履行することを停止条件とする旨の合意が存するところ、同契約は売主の債務不履行により解除されて条件不成就に確定したから報酬請求権は発生しないと主張するので、まず、右合意の存否について判断することとする。

(一)  被告は、被告の主張1(二)において、原、被告間には売主が契約上の義務を全部履行したときに本件仲介報酬を支払う旨の約定がなされたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、被告は、被告の主張1(三)において、本件売買の特殊性から、仲介人たる原告は契約が履行されて買主たる被告が契約目的を達成できるよう配慮する必要があり、従つて、原、被告間には前記の合意が黙示的になされたというべきであると主張する。

被告の主張1(一)の事実(本件売買の目的及び特約の存在)は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、本件売買の経緯について次の事実を認めることができ〈る〉。

(1) 原告において本件取引に直接関与したのは社員の葉山清三郎であり、被告は右葉山に勧められて本件土地を買うことにした。

(2) 被告は、以前に、他の業者から、本件土地は道路と排水の点で開発許可がおりないとの話を聞いており、又、仲介業者からも、他の業者で本件土地を買つた者が何人かいるが、いつも途中で解約となつた旨聞かされていた。

(3) 被告は、本件売買において、売主に道路位置指定を受け、農地転用許可を得る義務を負わせたほか、有限会社藤美住宅に本件土地の排水施設利用を承諾させた(第一〇条)。

(4) 本件売買では、手付金の授受はなされなかつた。

(5) 本件売買契約成立時に、被告としては、契約が完全に履行されたとき即ち代金完済時に原告に対し仲介報酬を支払うつもりであり、また、原告も取引が終つた時点で仲介報酬が支払われると思つていた。しかし、双方とも、契約が解除されたときの仲介報酬については考えてもいなかつた。

(6) 葉山の作成した業務日報(甲第二号証)には、昭和五七年四月一四日、葉山は被告に対し、完全解約の場合、違約金の中より原告の手数料を出してくれるよう依頼し、被告も、金額については未定であるが、支払うことは諒承した旨の記載がある。

以上の各事実によれば、本件土地について道路位置指定を受け、農地転用許可を得ることは、本件売買の目的に照らし、契約の重要な部分を占めているのにもかかわらず、これを成就することはかなり難しいと思われたため、買主がとくにこの点に留意して、売買契約に代金一括払、賠償額の予定等の特約を付したものであることが窺われるけれども、未だ、これをもつて、直ちに宅地建物取引業者である被告に対し、仲介人である同業者の原告が、売買契約が履行されて契約目的を達成できるよう配慮すべき義務を負つたと推認することはできず、従つて、原、被告間に仲介報酬請求権は契約の完全履行を停止条件に成立する旨の合意が黙示的になされたものと推認することもできない。

3  そうすると、本件仲介報酬請求権は、本件売買契約の成立により発生したということになる。

三次に報酬額について判断する。

本件において、原、被告間に報酬額についての約定がなされていないこと(請求原因5)、本件売買契約は売主の債務不履行により解除されたこと(被告の主張1(四))は当事者間に争いがなく、原、被告間に契約が解除された場合の報酬額についての約定もなされていなかつたことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができるから、本件の仲介報酬額は一般事例に倣つて相当とする額ということになる。

そして、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等の媒介に関して受けることのできる報酬の額は建設大臣の告示により定められ、業者はこの額をこえて報酬を受けることはできない(宅地建物取引業法四六条二項)とされるところ、原告代表者尋問の結果によれば、埼玉県の業者間において契約が中途解約された場合の仲介報酬額は、予め約定のなされていないときには、当初の取引価格を修正してその二ないし三パーセントの金額を基準として双方の協議により定められるのが通例であり、法定の最高額を直ちに報酬額とするような慣行のないことが認められ、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第三号証の記載も、業者と一般人間の場合ならば格別、業者間の場合についての右認定を左右するものではない。従つて、右最高額を本件の報酬額とすべきであるとの原告の主張は失当である。

そうすると、本件の報酬額は、本件における取引額、媒介の難易、期間、労力その他の諸般の事情を考慮して算定するのを相当とするが(最高裁判所第三小法廷昭和四三年八月二〇日判決・民集二二巻八号一六七七頁参照)、これらの諸事情と前掲の当事者間に争いのない事実及び認定の諸事実を総合して認定し得る本件売買の特殊性、とくに、契約締結に際し、売買の重要な部分を占める道路位置指定及び農地転用許可の成就について当事者間に相当の懸念がもたれていたために、手付金も授受されず、右諸条件の成就をまつて代金を一括支払うこととされ、債務不履行による契約解除の場合には違約金一〇〇〇万円を支払う旨の賠償額予定の特約が付されたこと、並びに本件売買契約解除後原告社員葉山が被告に対し、違約金の中より原告の手数料を出してくれるよう依頼し、被告も金額については未定であるが違約金の中からこれを支払う旨諒承したと推認し得ることとを考慮すると、右報酬額は違約金として予定された一〇〇〇万円の三パーセントである三〇万円を相当とするというべきである。

なお、本件売買契約解除後、被告が売主から違約金として六〇〇万円の支払を受けたこと(請求原因5)は当事者間に争いがないけれども、右六〇〇万円をもつて報酬額算定の基準とすべきであるとの被告の主張は合理性に乏しく採用することができない。

四請求原因6の事実(催告)は当事者間に争いがない。

五以上によれば、被告は原告に対し、本件売買による仲介報酬として金三〇万円及びこれに対する履行遅滞後の昭和五七年八月四日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負うから、原告の本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余の部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(手代木進)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例